各国は新型コロナ復興計画で、炭素集約型産業を引き続き支持
Silhouette of working on the pipe.
世界各国の政府は、新型コロナ回復パッケージに数兆ドルを投入している。今なら、直接投資によって、より持続可能な経済成長への道筋を定めることが可能である。
だが、これまでに炭素集約型産業に費やされた景気刺激策の総額は、低炭素セクターの少なくとも12倍の規模にのぼっている。7月2日付のブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(Bloomberg New Energy Finance :BNEF)によれば、グリーン景気刺激策として540億米ドルが承認されている一方で(そのうち180億米ドルは、何かしらのグリーン目標を達成することを条件に炭素集約型産業に向けられている)、炭素集約型産業に対しては無条件で6970億米ドルもの莫大な公的資金が投入されている。
その名の通り、グリーン景気刺激策は、気候・環境目標に沿った経済成長を促進するものである。政府は危機下において歳出を増加させるが、グリーン景気刺激は、例えば再生可能エネルギーやグリーンな輸送、送電網インフラに投資するなど、エネルギー効率と環境の改善に向けて金融支援を行うことで成すことができる。政府の実施する景気刺激策は中央銀行による金融政策を伴うもので、金利の引き下げや政府保証による融資、直接的な市場介入(資産購入)といった措置を含むこともある。
グリーン景気刺激策では、ドイツおよび欧州連合(EU)が先陣を切っている。BNEFによると、EUにおいては復興基金の約53%がグリーン施策に投入されているが、それに比べて米国ではわずか3%、アジアでは1%に過ぎない。欧州委員会はまた、EU向けに総額8200億米ドルという大規模なグリーン景気刺激策パッケージを提案している。
それに対してG20諸国は、失望させられる結果となっている。これまでに登録されている200件の個別のエネルギー政策のうち、少なくとも1590億米ドルが化石燃料の支援に充てられており、グリーン条件を伴うものはその約束金額のわずか20%にすぎない。気候変動・エネルギー政策を追跡する新ウェブサイト「エナジーポリシートラッカー」によれば、1367.1億米ドルがクリーンエネルギーに充てられているものの、その支援のうち81%は自然環境の適正な保全について明確化していない。
それだけでなく、新型コロナウイルス感染症の流行により、当初は二酸化炭素の排出量が世界的に減少したものの、 排出量は元の水準に戻り始めている兆候が見られており、そのペースは速い。中国におけるロックダウン(都市封鎖)により同国の CO2濃度は 25%低下したが、5月までに前年同月比で4〜5%上昇し、大気汚染はコロナ危機前の水準に戻った。他の国々もロックダウンから脱する中で、短期的な経済利益を優先することにより、中国の後に続く恐れがある。
景気刺激策を炭素集約型セクターに向けるという多くの国の決断は、ニコラス・スターン(LSE)やキャメロン・ヘップバーン(オックスフォード大学)、ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学)といった草分け的存在の経済学者を含む一流の有識者による助言に反している。例えば、ニコラス・スターンは、化石燃料への投資は座礁資産および行き場のない労働者をもたらすことになると述べている。
14カ国で実施されたIPSOS調査の結果、「グリーン・リカバリー」は一般市民から広い支持を得ており、65%がグリーン・リカバリーを支持し、また71%が気候変動は新型コロナウイルスと同等の脅威であると考えていることが示された。一般市民と共に、国連事務総長のアントニオ・グテーレスや国際エネルギー機関(IEA)事務局長のファティ・ビロル、マイケル・ブルームバーグ、世界資源研究所(WRI)副所長のヘレン・マウントフォード、欧州中央銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルドを始めとする世界的リーダーもグリーン・リカバリーを呼びかけている。