2008年の中国の緑の景気刺激策
2008年の金融危機の影響は中国にまで波及した。同国は、2008年には9.6%、2009年には9.2%という経済成長率をなんとか維持したが、2007年の14.2%からは大きな萎縮となった。2008年第4四半期には、2,000万人の農村部からの出稼ぎ労働者が失業し、数多くの工場が閉鎖され、解雇された労働者は補償を得ることなくとり残された。2009年の第1四半期の失業者数は、オーストラリアの人口を上回る2,600万人にのぼった。
2008年〜2009年に中国で実施された景気刺激策パッケージ
中国政府は2008 年から2009年にかけて、同国の2008年度国内総生産(GDP)の12.5%に相当する 4兆元(5,860億米ドル) 規模の景気刺激策を実施した。そのうち、総額のおよそ3分の1にあたる約2,210億米ドルは、省エネや環境改善、鉄道輸送、新規の送電網インフラなどといった「グリーン事業」に充てられた。
4兆元の景気刺激策パッケージのうち2,100億元(5.25%)は、省エネ、公害防止、環境改善に投資され 、9.25%はエネルギーを大量消費する産業の技術的・構造的アップグレードに費やされた。
景気刺激策は、中央政府による投資(約1.2兆元)と地方政府や国営企業、銀行による投資支援(3兆元弱)から成っていた。これらの投資は、主に政策銀行や商業銀行による融資を通じて行なわれた。
緑の景気刺激策が中国の再エネセクターの発展に与えた影響
再生可能エネルギーセクターは景気刺激プログラムの主要な支給対象ではなかったが、中国の第12次五カ年計画の一環として同セクターの発展を促すために施行された数々の政策を通じて、引き続き手厚い支援を受けた。
中国電力事業聯合会(CEC)によると、2009年には送電網に接続された風力発電設備の容量は合計で17.6 GW、前年比110%増となり、風力発電業界は同年も引き続き大成長を果たした。また、欧米で国内太陽光(PV)発電の需要が落ち込んだことにより、中国政府は自国の太陽光発電市場の活性化に取り組むようにもなった。
これらの政策はグリーン雇用に大きな違いをもたらした。中国におけるグリーン経済の発展に関する2015年の研究は、クリーンエネルギー政策を実施した省の都市では、そうした政策を実施しなかった省の都市に比べて、グリーン雇用は54.3%増、グリーンビジネスは61.8%増となったことを明らかにした。また別の研究では、2010年には中国において、太陽光(PV)発電の(エネルギーミックスにおける)シェアが1%増加する毎に、雇用が0.68%増加したことが示唆された。その効果は、他のどの発電テクノロジーよりも大きいことになる。
中国における景気刺激策パッケージの成果
世界銀行は、中国が2008年から2009年にかけて実施した財政政策は「適切な規模であり、数々の適切な構成要素を含み、時宜にかなっていた」ことから概して成功だったと評し、また、中央政府が割り当てた資金と互角の支出が地方政府によってなされたことで、国家レベルと地方レベルの両方で生産量に大きな影響を与えたと述べている。
だがその一方で、世界銀行は、地方政府による投資の大部分は不動産の建設・インフラへの投資を支援するために銀行から借り入れることで資金を調達しており、地方政府の債務を増大させる一因となったことについても言及している。
金融危機への対応策は、ガバナンスの問題も引き起こした。ある研究は、次のようにその「ドタバタ状態」を記している。「準備ができているかどうかに関わらず、これらのプロジェクトの多くは急速に展開、推進され、 環境・グリーンテクノロジー分野に求められる新たな支出を満たすために新規プロジェクトが急いでまとめ上げられた。1ヶ月も経たないうちに(中略)地方政府によって提案された投資プロジェクトの総額はなんと18兆元に達した。その後まもなく、最初に計画を発表した18省では、その額は25兆元に膨れ上がった」。国有銀行などの供給側の対応もまた「熱狂的」であり、その結果、いわゆる「金融緩和の津波」を引き起こした。
不動産業と重工業(鋼鉄、セメントなど)における供給過剰により、2014年半ばには、中国の総債務は2007年の約7兆米ドルの4倍となる28兆米ドルにのぼった。中国の銀行は多額かつ増加する不良債権ポートフォリオを抱えることになり、それを受けて国際通貨基金(IMF)は中国を財政不安定化の危険に晒していると警告した。
中国の景気刺激策パッケージは、同国のグリーン経済への移行を始動するための資金提供につながったが、インフラの拡大は中期的に石炭消費量とCO2排出量を急増させた。2000年から2013年にかけて、中国の石炭消費量はほぼ3倍に増加。この急増により、同国は2009年には世界最大の石炭純輸入国となり、2013年末には世界の石炭消費量の半分を占めるまでになった。
中国が景気刺激のために行った投資は、鉄鋼などのエネルギー集約型産業を拡大し、エネルギー消費量とCO2排出量をさらに増加させた。2005年〜2012年における中国のCO2排出パターンに着目した研究は、同国で2007年から2010年に増加したCO2排出量の70%以上がこの資本投資によって誘発されたものであることを明らかにした。
本ブログはコロナ経済危機への対応策としての「緑の景気刺激策」シリーズの一部であり、本記事以外にも2008年〜2009年に米国、韓国、欧州で実施された景気刺激策パッケージを事例として紹介し、様々な角度からその有効性を探っていく。