2008年の欧州の緑の景気刺激策
2008年の金融危機は、欧州連合(EU)域内において、銀行システムや事業投資、家計の需要・生産などといったいくつかのセクターを下落させた。その対応策として、各国政府が一連の財政政策を実施する中で、各中央銀行は大がかりな金融刺激策を実施した。それらの全てをあわせると、EUの国内総生産(GDP)の約5%に相当する規模となった。
2009年の終わりには、EUの失業率は2008年前半の6.8%から9.4%へと上昇した。25歳未満の失業率はさらに高く、同期間中に15.2%から21.1%にまで達した。金融危機による影響は国によって異なり、その度合いは主として危機前の状況や経済力の強弱、セクターの構造、政策当局者の対応の仕方などの組み合わせにより左右された。
2009年、EU全体の一人当たりのGDPは4.5%低下し、工業生産額は20%減少した。
2008年〜2009年に欧州で実施された景気刺激策パッケージ
2008年11月に欧州委員会は、金融危機への対応策として欧州経済回復計画(EERP)を採用し、加盟国に対して、10億ユーロの補助金を伴う「欧州の建物の省エネ化」イニシアティブと、12億ユーロの補助金を伴う「未来の工場」イニシアティブを通じてグリーンテクノロジーの開発・普及を促進するように奨励した。
さらに、2009年4月に欧州エネルギー復興プログラム(EEPR)が採用され、洋上風力発電や炭素回収、蓄電(ストレージ)システム実証などの新たなエネルギー・インフラの支援に 40億ユーロが充てられた。
経済回復計画(EERP)のグリーンな構成要素
EU全体の景気刺激策パッケージの規模は、EUのGDPの約1.5%に当たる2,000億ユーロに及んだ。EU諸国におけるグリーン投資は景気刺激策の総額の13.2%を占め、気候変動の防止や省エネ(エネルギー高効率化)を最優先し、その支出の大部分は建物の省エネ化(75%)に充てられ、残りは鉄道(20%)と自動車(5%)に充てられた。
国によって焦点は異なり、例えば、ドイツが低排出ガス車の購入を奨励する一方で、フランスは省エネと公共交通機関に重点を置いていた。加盟国の中でもドイツの景気刺激策は、EUで最大の財政再建プログラムとなり、EU全体の景気刺激策の20%を上回る資金を投じた。その810億ユーロ(1,048億米ドル)計画には、減税やインフラと気候変動対策への投資が含まれていた。
欧州経済回復計画により、2010年と2011年に多くのEU諸国でGDPが上昇したが、2012年にはそのうち半数の国でGDP が再び低下した。EUの失業率は、2009年後半には人口の9.4%だったが2010年には9.6%に上昇し、2011年前半には11%というピークに達した。
欧州経済回復計画の実施後まもなくEUは、続いて起こったソブリン危機の打撃を受けたことから、同計画の有効性は単純には示されなかった。欧州中央銀行の研究によると、最初に制定された通りに実施されていれば、欧州経済回復計画はかなり大きな効果をもたらしたかもしれないが、長続きはしなかったという。
本ブログはコロナ経済危機への対応策としての「緑の景気刺激策」シリーズの一部であり、本記事以外にも2008年〜2009年に米国、中国、韓国で実施された景気刺激策パッケージを事例として紹介し、様々な角度からその有効性を探っていく。