コロナ危機後の「より良い状態への回復」ー再生可能エネルギーがその中核を担う
温室効果ガス排出量を削減しつつ経済成長を刺激するプロジェクトでは、従来の景気刺激策に比べて、短期的にも長期的にも歳出のもたらす利益が大きくなる。
これは、2020年5月にオックスフォード大学スミス・スクールが発表した、ジョセフ・スティグリッツやニコラス・スターンを始めとする第一線の経済学者チームが行った新たな研究によるもので、2008年の金融危機以降に世界各国で実施された700に及ぶ景気刺激策の調査に基づき導き出された結論である。
再生可能エネルギーがすでに大きな雇用を創出していることを忘れないようにしたい。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、2018年には再生可能エネルギー・セクターにおいて、世界全体で1,100万人にのぼる新規の雇用があった。例えば米国などでは、再生可能エネルギーはすでに化石燃料産業よりも多くの新規雇用を創出しており、クリーンエネルギーの雇用者数(326万人)は化石燃料のそれ(117万人)を上回り、3.5%の伸び率(年)を見せ、2018年には11万人の新規雇用を生み出している。
環境防衛基金(Environmental Defense Fund)によれば、米国においては、100万米ドルの「省エネ(energy efficiency)」投資によっておおよそ8人のフルタイム雇用が創出されるという。その数は、化石燃料セクターに同額を投資することで創出される雇用の3倍に近い。また、マサチューセッツ州立大学の研究は、100万米ドルを化石燃料セクターに投資すると5.3人の雇用が生み出されるのに対し、同額をクリーンエネルギーに投資した場合には16.7人の雇用が創出されることを明らかにした。
2010年の経済パラメーターに着目した2011年の研究によると、中国においては、太陽光(PV)による発電の割合(シェア)が1%増加する毎に、総雇用者数が0.68%増加すると推定されており、その伸び率は他のどの発電テクノロジーよりも大きくなっている。
IRENAの 「エネルギー変容シナリオ(Transforming Energy Scenario :TES)」に基づけば、エネルギー・セクターの雇用者数は2050年までに1億人に達する見込みで、2017年の5,800万人のほぼ2倍になるという。TESシナリオは、 主に再生可能エネルギーと省エネに基づく IRENAの「エネルギー転換への道」を概説しており、それはパリ協定に沿って世界の気温上昇を「2℃を十分に下回る水準に抑える」ために、温室効果ガスの大幅削減を可能にするものである。同シナリオによると、再生可能エネルギーの雇用者数は、2050年までにどの地域においても化石燃料・原子力セクターを凌ぐことになり、北米、EU、ラテンアメリカ、東アジア、そしてカリブ海地域ではエネルギー・セクターの全雇用者数に占める割合は85%にもなり、サブサハラアフリカではおよそ60%になる。
再生可能エネルギーは4,200万人の新規雇用を創出し、さらに省エネで2,100万人、送電網とその柔軟性の向上で1,450万人の雇用がもたらされる可能性がある。雇用のほとんどは、再生可能エネルギーシステムの製造や取り付け(インストール)、運営、維持に関わるもので、太陽光での雇用が最多となり、その後にバイオ燃料と風力が続く。これらの雇用の割合が最も高くなるのは、東アジア(15%)だという。省エネにおける新規の雇用に関しては、その大部分は北米(45%)と欧州(29%)に集中すると見られる。[2]
端的に言えば、“緑の景気刺激策”は、クリーンな雇用と持続可能な成長をもたらすことによってより良い代替案を提供するということである。